2015年1月12日月曜日

「その女、アレックス」感想(後半にネタバレあり)


読了しました。流行りものに手を出してみた。
3部構成。久しぶりの海外文学ということもあって(普段はあまり読まない)1部は正直ダレましたが、2部、3部はあっという間、グイグイ読み進めてしまった。





ここでは前半に未読で購読を迷っている方向けの感想を、後半で既読の方と感想を共有したいがための一人語りをログします。
後半は内容に言及していることをご留意ください。




これから読まれるかたへ

多くの方がレビューされている通り、まったく予備知識を入れずまっさらな読んだほうが絶対おもしろい作品です。アレックス、カミーユ、スピード感ある2者の視点の切り替わり、テンポよくスタイリッシュな文体。ビジュアルが想起しやすい描写。翻訳も今こんなにこなれてるのね。
ミステリ好き、エスプリ、多少の暴力描写も平気、あくの強いキャラクター好き、という方は読んで楽しいです。


ただ
貴方の予想はすべて裏切られる――」(http://www.amazon.co.jp/gp/product/416790196X#customerReviews
 という文言に期待を持ちすぎるとラスト肩透かし感になってしまうかな、という印象でした。
むしろ後半はすべてのオセロの色が何度もひっくり返されていくのをただただ夢中で追いかけてください。そのほうが絶対に楽しいから。

以下、読んだ方と感想を共有したいので、ネタバレを含みます。
未読の方はここでそっ閉じお願いします。


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もう読まれた方へ


この作品は「他者の人生をどう切り取るか」

この作品の煽り文句「どんでん返し」とか「読者を裏切るトリック」は的確ではないと思う。
作者自身は執筆前段階の構想としてアレックスの人生を練り、必要に応じて必要な箇所をプレゼンテーションしているだけなのだ。

誘拐され拷問を受けている悲惨な被害者。あるいはそこから機転で脱出した聡いサヴァイヴァー。少女時時代の思い出の品を捨てられず泣く純粋な女性。感情の起伏なく袖触れ合った他人を殺すサイコパス。自分の命をかけた復讐計画を敢行する意志の強い人間。

ラストまで読めば彼女の行動には理由があり、終始一貫したものだとわかる。けれども読んでいる最中の読者にとっては、アレックスはまるで言動が破綻した、多重人格者のように映る。


人は他者のことを理解しようとするとき、どれだけ彼/彼女のバックグラウンドを主観的に読み込んでしまうか。「どの視点から他者を見るか」を問いかける作品だな、と思った。



カミーユ達パリ警察の他作品が見たい

アレックスの少女のような一面と冷静に他人の頭をドツきまわし濃硫酸を飲ませるサイコ加減のコントラストも魅力的だけど、カミーユの特異な、しかし影のある人物設定もすごくよかった!

カミーユと光と影のような役割の相棒、AIみたいなルイの描写もカッチョ良かった。カミーユとルイシリーズで連作してくれないかなーと思いながら読んでたらあとがき連作紹介。やっぱあるんだね。

カミーユシリーズは下記2作品。
残念ながら日本語訳にはなっておらず。

邦訳;「丁寧な仕事」

邦訳;「犠牲」





ラスト「大事なのは真実ではなく正義だ」に賛同できるか

これは意見が分かれるところじゃないかな。

終わり方としてはとても痛快で「こうでないと救われんわ!エンターテイメンツ!」と思うんだけど、同時に法の番人としての日本の警察しか知らない私としては「それは警察の正義の行使のありかたか?」と疑問ももってしまった。杓子定規な野郎なんです。
ここらへんは少し考えてあとでなんかもっかい書くかも。



おわりに

アレックスの人生、死に向かう心情を共有できるのは作者と読者だけ


アレックスは最後、本当にスイスへ旅立つこともできた。本アレックスはほんとうに悲惨な過去を抱えた「アレックス」から自由になれるんじゃないかな、と思った。
少なくとも私は、本革の旅行バッグを選び、タクシーの手配をした彼女の行動にそんなほんのわずかな希望を感じてしまった。

でもアレックスは計画を完遂することを選んだ。
自分の命をかけて相手を最大限「ぶっつぶす」ことを選んだ。彼女にとってはそれが唯一の救いだった。

たしかに私だったら、同じ仕打ちをされたら生きていくことにもう希望なんて見いだせない。かといって相手をこの手でころしたいという感情を理性で抑えつけられるか、自信もない。
つまりそれほどアレックスの憎悪が深いということなのだ。

自らの身に起こったこと、苦しみ哀しみを、親にも友人にも、完全に誰にも理解されることなくたったひとりで生き、死ぬ。それはなんと絶望的なことだろう。

カミーユ、ルイらの警察はアレックスの死に向かった計画と人生を、恐怖を、哀しみを、憎しみを、足跡をたどり間接的に理解することはできても、その時の彼女の感情を共有することはもうできない。

ただこの物語を編み出した作者と、そのほんの一部の共有を赦された私達読者だけが、知り、彼女に寄り添うことができるというのは、なんとも複雑だ。





※ところで、こういうミステリもののネタバレはやっぱりしないほうがいいのだろうか…
読んだ後感想を共有するみたいな感じで書評ブログ見るの好きなんだけどな…
「こうしたほういいよ」ってのご存知のかた教えてください


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