2014年12月1日月曜日

子どものころハマったマンガを再読するの面白い-清水玲子「月の子」

卯野です。
子供の頃にハマったマンガを再読してみるとまた違ったものが見えてきて面白いよ、というお話。
ネタバレ含みます。

清水玲子「月の子」

1988〜92年にかけて少女漫画雑誌「LaLa」に連載されたSF作品。
アンデルセン童話「人魚姫」をモチーフにして描かれた。文庫版全8巻。




あらすじ

舞台はNY。かつて天才といわしめたが今は売れないダンサーのアート・ガイルは人身事故をおこし、事故のショックで記憶を失ってしまった少年(?)をジミーと名付け、面倒をみることに。
実はその少年ジミーは人魚族の「女性体」で、産卵のために兄弟たちと月から地球へかえってきたのだった。
そしてジミーの母親は童話「人魚姫」のモチーフにもなり、人間の王子との種族をこえた恋で仲間の人魚族たちに多大な被害をあたえた「セイラ」。

ジミーが人間であるアートと恋におちればふたたび世界の均衡はこわれ、この星は滅んでしまうと預言する人魚の長。

ジミーのきょうだいで彼を憎むきょうだいのティルトは、同じきょうだいで「スペアの女性体」であるセツの命を救い、ジミーの代わりに彼を女性体にしようと魔女と契約、交換条件にこの地球を破壊すると約束してしまう。

人間「ギル・オウエン」の姿を借りてチェルノブイリ原発事故を起こし、ジミーの命と地球そのものを壊そうとするティルト。

ジミーとアートの恋はこの世界を滅ぼしてしまうのか、それとも――。




はい。以下、再読して初めてわかったことザクっと。

名前にこめた意味

ジミー(本当の名前はベンジャミン)のきょうだいは2人いて、名前はティルトとセツ。
この物語において「裏切り者」は2人いて、公にはジミーが同族を裏切ってまた人間(アート)とくっつこうとしてやがるって非難されるんだけど、実際に魔女と契約して人魚も人間も殺しちゃえってなるのはティルトなんだよね。

で、「ティルト」は「tilt」=傾く、つまりこの物語において世界のバランスを壊そうとする役割。
そうなると、それと対の位置にいる「セツ」はたぶん「set」。母セイラが結ばれるはずだった人魚の血を引くショナと恋に落ち卵を身ごもることで、世界の傾きを修正しもとの位置におさめる役割だったのではないかと。
(追記:「ベンジャミン」は観葉植物のあのベンジャミンしか思いつかないんだけど、作者が意味を込めるとしたら花言葉の「信頼」とか「永遠の愛」とかなのかな?

物語の入りはジミーとアートからだったけれど、ティルトとセツ、セツとショナ、傾きが最終話にむかって正常位置に修正され、各々の願いが叶えられる救いの物語だったのだなあと思います。

改めてみるとティルトに一番感情移入できるかな。汚れ役を一身に受けてきたその歪んだコンプレックスが人間くさい。


イデアと文脈、隠しモチーフの話

先日「文脈で解釈、分析しようとせずにイデアで作品を楽しめ」という批評態度に関するエントリを読みまして。
作品を語るときになぜあなたは「文脈」を使うんですか?(7213文字)【更新】 - 猫箱ただひとつ




「イデアで楽しむってなんだ?魂で読め!ってこと?」と疑問をもちつつ再確認したのは、「文脈を主にして作品を分析するのはたしかにもったいないことだけど、作品から文脈を完全に切り離して楽しむのはやっぱり難しいし、それも完全な楽しみ方とはいえないんじゃないかな」ってこと。
たとえば「月の子」ももともと「人魚姫」という物語の文脈の上に成り立っているものだし。

単純にストーリーを追っても面白い。
さらに自分が成長して、いろんな経験や感情、知識を得てから再読して、登場人物の心の揺れや隠されたモチーフを再発見できる。そんな作品ってスンバラシイですねっ(水野晴郎風に)。

あと幼少期に美しい清水玲子先生の画に触れていたのもいいことだったなあー。
ミュシャの模倣とかホント美しいし、残酷な描写もよりいっそう引き立っている。


清水玲子先生は現在連載中の「秘密 -トップ・シークレット- 」、小学館漫画賞を受賞した「輝夜姫 」もおもしろいですが、シリーズ物SFの「竜の眠る星」のジャックとエレナの遊星旅行中のやりとりも素敵ですぜ。





好きなマンガをベタぼめするのは楽しいっ!




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