2014年10月4日土曜日

甘くてビターな 「恋しくて」ー村上春樹編訳 感想


読了しました~。いずれもどこか一筋縄ではいかない、不穏さを内包したラブストーリーアンソロジー10編です。
8、9割は良い読後感。それぞれの感想を少しずつログします。






愛し合う二人に代わって
イラク侵攻のための出兵が始まり、派遣される兵士とその恋人に代わって代理結婚のアルバイトを引き受けることになった学生男女の物語。
「等量の愛情。これがそういうものなのか?いや、ぴったり等量である必要なんてない。等量に近ければそれでいいじゃないか。」

テレサ
教室の斜めうしろからいつも見つめているあの娘、帰り道のあとをひっそり尾けていったら…というお話。
アル中で太り気味であることにコンプレックスを感じている主人公の男子が、あこがれの恋から一気に地にひきずりおろされ軽く絶望するも、それでもそこからまた何かがたちのぼりそうな、甘酸っぱく爽やかなラストです。


二人の少年と、一人の少女
いわゆる「横恋慕」系。博学だけど皮肉屋の主人公の男の子が、親友の留守のあいだその彼女とナイトドライブを楽しみます。
ラストは彼女の残酷な仕打ちと、彼女の愚鈍さを逆手にとった主人公のクレイジーな仕返し…。
甘酸っぱい系です。


甘い夢を
同棲を始めたばかりの初々しい恋人たちに忍び寄る不穏な男。
恋愛の炎に燃える真っ最中の若い2人には今この瞬間この相手しか目の前にいないこと、しかしいずれ破綻した自分の過去のその熱情を懐かしむような遠い目で思い出す日がくること、恋愛のナウアンドゼンの特徴を描いた作品です。
主人公の彼女のイキっぷりが見事。

L・デパードとアリエットーー愛の物語
村上春樹があとがきでも書いてる通り、短編なのに一大叙事詩みたいな広がりを見せちゃってるストーリー。
最初はロリータみたいな少女と大人の男性のちょっとイケないプール練習を覗いているようで映画的。
中盤、主人公男性のでデパードがアリエットの父親から無残な制裁にあい街に投げ捨てられるも、そこからデパードとアリエットの交錯する人生がなんかもう大河です。
2人の息子の名前が「コンパス」ってのはいいなと思いました。彼を中心にデパードとアリエットが、顔をもう合わせることはないんだけどつながってるという。

薄暗い運命
10編中もっとも短くヤマなし、オチなし、イミなしでどす暗く、救いがない物語。私の好きなやつです。
そうそう恋愛ってこんなにもディスコミュニケーションで勝手に根拠なく至福感を感じられるものだよなあ。


ジャック・ランダ・ホテル
10編中読むのを中断した唯一の作品。どうしても頭に入ってこなかった。
若い女を追って家を出た夫と、それを追いかけて彼の近くに引っ越してきた妻。妻は身分を隠して夫と奇妙な文通を始める、という内容らしいっす。
あとがき読んだらこれだけ翻訳家柴田元幸氏ご推薦らしい。

恋と水素
アメリカで実際にあった気球船の水素爆発事故をモチーフに描かれたフィクション。
唯一の同性愛の物語です。
恋人が乗客のハスっぱ娘に色目使われて嫉妬しながら、その恋人の懐中時計をパンツの中に含ませて作業に向かっちゃう描写なんて可愛い。



モントリオールの恋人
後天的に不倫になった恋を、女が意外な手をつかって終わらせるという物語。
「まだ完全に始まっていないものをうまく終わらせるって、そう簡単なことじゃないもの」
そうだね。

恋するザムザ
村上春樹の描きおろし恋愛短編。
ねえおにいちゃんなんで村上春樹に出てくる主人公はみんな自分の意思とは反して勃起してそれを目の当たりにした女の子は最終的にそれを受け入れるん?
カフカの「変身」をモチーフにしたものだそうですが変身読んでなくても楽しめました。これセカイ系や。
素直なんだけどちょっとお脳が足りてない感じのザムザくんと口が悪くて男気あふれるせむしの彼女のやりとりが愛らしい。
がんばれザムザくん、まずはパンツを履くところから学習だ!


10編中あきらかなハッピーエンドは最初の「愛し合う2人に代わって」の1作のみ。
個人的には総じてビターだなと思いますが、おもしろかったです。



  

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